霊長類最強と言われた吉田沙保里選手を筆頭に、リオオリンピックの6階級すべての代表選手は、実は全員同じ大学の出身。栄和人監督が率いる至学館大学のレスリング部だ。その強さの秘密を探るべく、チームの練習を訪ねると、厳しい中にも和やかな雰囲気を感じる。「どんなに苦しくてツラい時でも、笑顔を見せられる、それがこのチームの魅力!」と栄監督。そんな練習の合間を縫って、栄監督と、川井梨紗子選手、土性沙羅選手、登坂絵莉選手の3人の金メダリストに話を聞いた。

レスリングというスポーツに魅せられて

レスリングの魅力はなんですか? と聞くと、選手たちが答えてくれたのは、「スタミナやスピードの勝負だけでなく、技の駆け引きもあるのが魅力」(川井選手)、「勝敗がはっきりしているところに魅力を感じる」(土性選手)と、自身がこのスポーツに魅せられている理由だ。そして、彼らの育ての親である栄監督は、「もちろん勝負の世界なんだけど、負けても終わりじゃないというのがいい」と言う。

「レスリングだけでなく、スポーツって、好きとか楽しむとかだけじゃないんですね。やっぱり強くなりたいという思いがあって、そのために努力を積み重ねる。そうやって大きな夢を持つようになれる、というのが魅力。そして、そういう辛く苦しい時期を後で振り返って『あの時代が私を支えている』と思えなければ意味がない。スポーツを辞めてからも、社会に出てもプライベートでも、人生のすべてにおいていろんな試練があるわけですよね。それらを乗り越える力をつけて、自ら夢を求める人生を得て欲しい、と思って指導しているんです」(栄監督)

 

メリハリのある練習とチームの絆で強くなる

その指導にはどんな秘密があるのだろう。練習は通常、朝にランニングや補強トレーニングを約1時間、午後はマットでの実践練習を中心に行う。

「練習は、ほんとにキツいトレーニングと、楽しいトレーニングを組み合わせてメリハリをつけています。同じこと繰り返すと人間、飽きちゃうしね。それでもやっぱりモチベーションが上がらない子とか、たるんでる子とかも出てくる。そういう時はしっかり向き合って、その子の性格も考えて、どうやったら立ち直れるか、前を向けるか、みんなで一緒に解決してあげることが大事。そういうことができるのは、寮で共同生活をしているからですよね。生活の中で、心が育つ。それが強くなるためには大事なことなんです」(栄監督)

レスリング

選手を知ることで観戦はもっと面白くなる

この日は、アシックスのイベントで、一般の方がゲストとして練習に参加した。世界で戦う選手たちと同じマットの上で練習できるなんて貴重な経験だ。参加者は汗だくになり、歯を食いしばりながら、トレーニングの一部を体感した。こんなふうにレスリングと触れ合えるのは素晴らしいですね、と言うと、「うちはオープンなんだよ。みんなに選手のことを知ってもらいたいし、レスリングを好きになってもらいたいから」と栄監督。そんなふうに、まだ女子レスリングがオリンピック正式種目ではなかった頃から、選手だけでなく、ファンも育ててきた。

「選手が強くなって、レスリングの試合を見てくれる人が増えたけど、これからはもっと選手一人一人のファンになってもらいたい。選手の体調、最近の様子などを知れば、試合をもっと楽しめると思いますよ」(栄監督)

観戦するならここに注目!

最後に、選手たち自身にレスリングの試合の見どころを教えてもらった。

「タックルだけでなく、構えの中からの組み手のだましあいも面白いので注目してください」(登坂選手)

「大技や背中がマットに1秒以上ついたらフォールもあり、最後まで何が起こるかわからないのがレスリング。試合終了までドキドキ、ハラハラの展開を楽しんでください」(土性選手)

「派手な技は見ていて面白いかも知れませんが、技だけでなく、戦っている選手がどんな駆け引きをしているのかなど考えながら観戦するのも面白いですよ」(川井選手)

 

「強カワイイ! 至学館女子レスリングの魅力に迫る(後編)」はこちら

 

TEXT : Sachiko Kawase