十人十色のプレースタイルが生まれる
大学スポーツの魅力を伝える本企画。第4弾はASICSがユニフォームの提供をはじめ、包括的連携交流協定を結ぶ立命館大学のホッケー部監督を訪ねました。
氷上のアイスホッケーではなく、芝のフィールド上で行うスポーツ「ホッケー」。日本ではまだまだマイナースポーツの部類かもしれませんが、日本男女代表チームは2020年の東京オリンピックへの出場も決定しており、その活躍が期待されています。
同校のホッケー部は男女ともに強豪校として知られ、2005年度の全日本学生ホッケー選手権大会では史上2校目となるアベック優勝を成し遂げています。その当時より監督として学生を支える男子ホッケー部の山口修一郎監督と、山口監督の中学時代からの同級生で高校時代よりホッケー部の仲間として一緒にプレーしていた女子ホッケー部の山田雅哉監督に、ホッケーという競技の魅力、立命館大学ならではの伝統や監督生活について話を聞きました。
—ホッケーの見どころを教えてください。
山口 ホッケーは、球技の中で一番ボールスピードが速い競技です。スピーディな展開というのが醍醐味ですね。身長が高い・低い、足が速い・遅いなど身体的特徴を生かせるスポーツで、十人十色のプレースタイルが生まれます。団体スポーツなので、ひとりひとりの特性を組み合わせてチームを作るのですが、毎年まったく違うチームになるところが面白いですね。
山田 スティックワークのテクニックで差が出るスポーツでもありますね。ボールゲーム全体に言えることだと思いますが、絶妙なパスや巧みなドリブル、そういうところも見どころです。
—立命館大学ホッケー部ならではの魅力や伝統についても教えてください。
山口 自由な校風ですね。ホッケーが強い大学は体育大学が多いのですが、文武両道で学生が主体という点で立命館は違います。監督やコーチが押しつけるのではなく、学生の自治で成り立っています。学生は勉強もして単位取得もしなくてはいけないため、ハードルは高いと思います。その分、卒業した後はスポーツだけではなく、広く社会一般に通用するような人材を育てないといけない母体でもあります。
山田 最近はどこの大学もよく言われますが、立命館は以前より、単位が取れていない学生は公式戦にも出られないほど、文武両道を重んじます。そのためホッケー部の学生は、ホッケーも勉強も一生懸命取り組んでいます。立命館の校風である、学生自らが目標を決め練習メニューも組むという主体性は社会にも通用することなので、しっかりとした社会人になってくれていますね。
山口 また、日本ナンバーワンと言える施設環境も強みです。ナイター設備、全天候型ウォーターベース、人工芝、ウエイトトレーニング施設、宿泊施設がありすべてが揃っています。これは長年かかってやっと手に入れた環境です。
——立命館大学の他の部とホッケー部の違いはあるのでしょうか?
山口 ホッケー部は、大学が指定する最重点強化指定クラブです。立命館大学には同好会を含めると体育会系のクラブが55近くありますが、その中で大学が力を入れている模範クラブの一つです。競技成績はもちろんのこと、選手全員が単位を取得して卒業するという文武両道を実践しなければなりません。
山田 僕たちが出身の立命館中学校からホッケークラブがあるということは大きいと思います。中学・高校出身で活躍する選手もたくさんいますね。僕たちも高校時代のコーチが厳しい方で、「伝統をつくるのはお前たちだ」と常日頃から言われていました。
日本一の目標に向けて努力する学生をサポートしたい
——これまでの監督生活の中で一番印象に残っている試合はなんでしょうか?
山田 僕ははじめてインカレで優勝した2004年の試合ですね。女子の決勝は延長戦で、あまりにも白熱したゲームだったので途中でコーチが、選手たちのひたむきな姿を見て、感極まって泣き出して。そんなシーンも印象に残っています。
その翌年にはアベック優勝しました。男女ともに決勝戦の開催日が重なり、女子が先に優勝が決まり男子の試合を観ていました。当時の男子部は、実はなかなか勝てないチームだったんです。そんな学生たちが一生懸命にプレーしている姿には胸を打たれ、涙がこぼれましたね。
山口 僕は監督ではなくコーチ時代だったのですが、初めて天理大学に勝った時ですね。当時天理大学は関西で連勝記録を持っていました。331連勝という驚異的な数字で国内球技のギネス記録を追いかけていたんです。それを止めたのが立命館です。その後、男子部は何度も全国制覇をしていますが、連勝記録を止めたその試合が一番印象深いです。
—学生とのコミュニケーションで意識していることはどんなことでしょうか?
山口 自分がコーチや監督になるなんて予想もしていなかったので、コーチに就任した際に立命館大学のホッケー部を立ち上げた故・柴田亨三先生に指導者になるにあたり話を聞きに行ったことがあります。10人いたら10人、20人いたら20人いる選手をいかに平等に愛せるかどうかが指導者として一番大事だと教えてもらいました。
山田 僕は全員自分の娘くらいの思いで接しています。特に、技術面ではなくメンタル面、例えば体調はどうだろうかなどを気にかけていますね。表情がここ数日優れないなと思ったら、「最近どう?」という感じに話をしてみるとか。逆にすごく調子がいい学生がいたら、「調子いいな」と声をかけます。声をかけるとうれしそうに答えが返ってきますし、表情も明るくなりますね。僕は現場では教えない分、そういうことが仕事だと思っています。
—ホッケーを通じて選手たちに伝えたいことを教えてください。
山口 日本一になるという命題があるからこそ、競争も熾烈ですし厳しいものを求められます。このコミュニティでどう生きていくかということは、社会でどう生きていくかと一緒なんですよ。そういう環境で4年間過ごした学生はそれなりの経験値を積んで卒業していきます。うちに入部した学生の親御さんは、こんなに立派になるとは思わなかった、立命館に入れてよかった、と言ってくださるほど、学生は、入部した時と卒業するときはまるで別人のように成長します。
山田 4回生は自分たちで目標設定をしています。学生自ら運営をするというところで、僕やヘッドコーチがこれをしなさい、ということは絶対言いません。1回生は先輩のために一生懸命働く、それでいいんですよ。それが2回生3回生になり、会社でいう中間管理職になる訳です。その点は社会と一緒ですよね。常識を備えた社会人になってほしいです。
山口 4年間様々な苦労もしながら辛い目にも遭いますが、日本一の目標に向かって努力してきたその4年間は、すごく貴重です。どんな世界に飛び込んでも打ち勝てるような、そんな素地をつくる母体でありたいと思っています。卒業後の人生に良い影響を与えてあげたいですね。
Text:Kaori Takayama
Photo:Masuhiro Machida
Edit:Shota Kato