何よりも美味しさにこだわる
運動だけでなく食事を含めて体づくり。そんな運動のお供に取り入れてほしい一皿を、料理家が栄養バランスを考えてご提案するのが「運動ごはん」です。
第11回目は前回に引き続き、東京・池尻で「OGINO」のオーナーシェフとして腕をふるう荻野伸也さん。35歳を過ぎてから趣味で始めたトライアスロンは大会に出場するほどのめり込み、サーフィンやロッククライミングなど幅広いスポーツを嗜んでいるアスリートシェフです。
荻野さんは運動を続ける理由を次のように話します。
「僕のような都心に店を構える料理人は閉鎖的な空間で長い労働時間になり、自然に触れる機会が極端に減るんです。そうすると、僕の中から自然というものが完全に欠落しているように感じて。それを取り戻すために運動と向き合っている気がします。バランスを取っているような感覚です」
元々都心に住んでいた荻野さんは、自分の中に芽生えた違和感から居住地を変えることで運動を自身のライフサイクルの一部にしました。
「周りの環境を変えたことで、今までできなかったことをやろうと思うようになりました。運動もですし農作業もそうです。自分の体も自然の一部というか。自然と触れ合う時間を多く設けることで、感覚が鋭くなったと感じていて。それは料理にも生かされていますね」
前編でご紹介した「鶏胸肉のしゃぶしゃぶ」は運動を取り入れるようになった荻野さんの名刺代わりとなる一品。鶏胸肉はヘルシーでタンパク質豊富な食材として、アスリートやスポーツ愛好家の注目を集めています。後編も栄養価の高い鶏胸肉を使った料理として、「鶏胸肉のガパオ」をご紹介します。
鶏肉といえば淡白な味というイメージがあるかもしれません。しかし荻野さんは何よりも美味しく味わえることにこだわります。
「僕は、あえて栄養学は学んでいません。とにかくまずは美味しいものをつくるということを大事にしています。どれだけ体にいい料理だと言われても、美味しくなければ長く続かないですよね。美味しさが入り口としてあって、そこに栄養計算が入って、少しずつ改善していく。それがベストだと思っているんです。理想は、美味しいからつくったものが実は筋肉に良かった、という感じ。ガパオは緑黄色野菜に含まれるβカロテンも摂取できて、疲れていてもソースが食欲を高めてくれます。そういう意味でも運動後の食事としておすすめです」
切って炒めるだけの簡単エスニック料理
<レシピ>
鶏胸肉のガパオ
【材料】 2人分
鶏胸ひき肉 200g
玉ねぎ 200g
赤・緑パプリカ 各1個
バジル お好みで
にんにく 適量
サラダ油 大さじ1
ナンプラー 大さじ1
オイスターソース 大さじ1
スイートチリソース 大さじ1
水40cc
酒40cc
ごはん 140g
目玉焼き 2枚
黒コショウ 適量
【つくり方】
1.玉ねぎ、パプリカとバジルをお好みの大きさにカットする。
2.フライパンにサラダ油を熱し、にんにくを軽く炒める。
3.鶏胸ひき肉を入れてほぐし、色が白っぽく変わったら玉ねぎとパプリカを入れて炒める。
4.バジル、ナンプラー、オイスターソース、スイートチリソース、水と酒を入れる。
5.水分が煮詰まるまで強火で炒め煮をする。
6.ごはんを盛った器に盛り付け、目玉焼きをのせ、黒コショウをかけて完成
「ひき肉とカット野菜、調味料を炒めるだけというとても簡単な調理です。今回は水と酒を使っていますが、前編で紹介した鶏胸肉のしゃぶしゃぶのゆで汁も代用できます。ひき肉を炒める際は、おたまの底で潰すようにするとバラバラになりやすいので試してみてください。野菜を投入してからはスピーディにさっと火を通し、野菜の食感を残すのがポイントです」
「僕たちは基本的に1日3食の食事をとります。当たり前すぎて忘れられているように感じるのですが、本当は毎日自分が食べているものをもっと意識しなければいけないと思うんですよね。それをスポーツと食で切り取った場合、もっと食事に気を配ることで強くなれるし、目標への到達が近くなるかもしれません。今回ご紹介した2つの料理はどちらも簡単なので、ぜひ一緒に運動する仲間と作って食卓を囲んでほしいですね」
荻野伸也
東京・池尻の人気フランス料理店「OGINO」オーナーシェフ。フレンチ惣菜店「ターブルオギノ」も経営。35歳を過ぎてから本気でスポーツに取り組み始め、トライアスロンの大会に出場するまでに。現在は神奈川県藤沢市に在住。自宅から東京・池尻まで練習と称して自転車で来ることもあるというアスリートシェフ。著作に『アスリートシェフの美筋レシピ』(柴田書店)、『アスリートシェフのチキンブレストレシピ』(柴田書店)、『レストランOGINOの果物料理』(誠文堂新光社)などがある。
Text:Kaori Takayama
Photo:Keta Tamamura
Edit:Shota Kato