(c)古舘春一/集英社

「ハイキュー!!」はチームワークが作られていく描写がリアル(柳田将洋選手)

世の中の漫画には、スポーツを題材にした作品が数多く存在します。その影響力の大きさといえば、競技人口が増えたり、アスリートが多く誕生したりと、競技そのものの未来に大きく関わるほど。共感を生む現場さながらのリアリティの描写と、漫画ならではのストーリー展開に鳥肌が立ったり涙を流したり、きっとスポーツ漫画から心を動かされた人は少なくないでしょう。

 

現在、『週刊少年ジャンプ』にて連載中の古舘春一によるバレーボール漫画「ハイキュー!!」(2012年~)も、スポーツ漫画の歴史にその名を刻む人気作です。

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主人公は烏野高校1年生の日向翔陽。小学生のときにテレビ画面に映っていた、かつての名門・烏野高校バレーボール部の“小さな巨人”に憧れ同校バレーボール部に入部します。しかし、そこには中学最初で最後の公式戦で惨敗した相手・影山飛雄の姿がありました。反目しあうも、日向の抜群の運動能力と影山の正確なトスは、奇跡のような“変人速攻”を生み、名門復活の原動力となっていきます。少年たちはぶつかり合いながらもたった一つのボールを必死に繋ぐ。その先に見える景色を目指す熱血青春バレーボール物語が「ハイキュー!!」なのです。

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『ハイキュー!!』は現役バレーボール選手からの人気も高く、その熱狂的なファンを公言しているのがドイツのプロリーグで活躍されていた柳田将洋選手です。柳田選手は『ハイキュー!!』の魅力を次のように語ってくれました。

 

「バレーボールに大事なチームワークが作られていく描写がリアルなんです。好きな登場人物は影山飛雄ですね。影山がバレーボールを通じて、独りからチームに成長していく様子はとても共感できますし、彼の成長や月島蛍がバレーボールにハマる瞬間に自分にも似たような経験がありました。 選手になってから漫画に影響を受けるとは思いませんでしたね。登場人物たちのバレーボールに対するさまざまな想いに触れることで、自分自身がプレーするモチベーションにもなっています」

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担当編集者が感じる「ハイキュー!!」の魅力と影響

現在「ハイキュー!!」が連載されている『週刊少年ジャンプ』編集部にて、作者の古舘春一先生を担当するのは池田亮太さん(2017年当時)。昨年少年ジャンプ編集部に配属された池田さんが初めて担当した作品が「ハイキュー!!」だといいます。今回は担当編集者の視点から作品の魅力を語っていただきました。

 

——バレーボールと「ハイキュー!!」の魅力をどのように捉えていますか?

 

まず、バレーボールは一人で続けてボールを触ることができない球技です。そのため、一人では決して勝つことはできませんし、チーム全員で一丸となって戦わないといけないという点に面白さを感じています。そういったところを通じて、チームメイトを思いやり、時には全力でぶつかりあい、諦めずひたむきに努力して成長していく熱いドラマが「ハイキュー!!」の魅力ですね。人生にもさまざまな壁が立ちはだかりますが、コートに立ちはだかる高い壁に諦めることなく挑み続ける日向たちの姿が共感と感動を生んでいるのではないでしょうか。

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——実際のプレーのリアリティと漫画ならではの魅せる表現との良いバランスも、「ハイキュー!!」が支持されている理由のひとつだと感じます。

 

小さい頃からバレーボールに携わってきた古舘先生ならではの話作りはリアリティと説得力があります。線に勢いがある作風の古舘先生は、サーブ、レシーブ、アタックなどの線の太さや強弱をカッコよく描けるので、画面に迫力が生まれるんですね。

それから「ハイキュー!!」では、効果音に触れる方が非常に多いですね。プレーヤーのポジションが入れ替わるときの擬音語を『キュッ↔』と表したり、バレーボール特有のスピード感、入れ替わりの躍動感を表現しているんです。あと、僕としては、古舘先生の描く烏養監督や猫又監督などのおじいちゃんの絵もとても味わい深くて好きだったりします(笑)。

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——作品を構成する上で大会などに足を運ぶ機会も少なくないと思います。現場から得られた要素として、何か作品に反映されているものはありますか?

 

実際に春高バレーへは何度か取材に行っています。東京体育館の構造にはじまり、当日の会場の雰囲気、選手たちは試合が始まる前にどこでウオームアップしているのか、試合後はどのようにして過ごしているのか、宿泊先はどこなのかなど。これは余談ですが、コミックス26巻第232話に、烏野高校バレーボール部マネージャーの清水潔子さんが東京体育館の外にある柵を飛ぶシーンがありますが、あれもどのルートを通ればいい感じに描けるのかを古舘先生は考えられてました。実際に会場の外を見て回って、この柵がいいんじゃないかと見つけたりされていて。

 

——「ハイキュー!!」がバレーボールに与えた影響をどのように感じていますか?

 

ファンレターなどで「ハイキュー!!」を読んでバレーボールの試合を観るようになったり、バレーボールを実際に始めました、という声を本当に多くいただきます。他にも「インターハイ」や「春の高校バレー」といった実際の大会ともコラボレーションさせていただくなど、読者と競技を近づける手助けになっているのではないかと。古舘先生自身に“バレーボールの楽しさを多くの人に伝えたい”という強い想いがあるので、これほど有り難いことはありません。

作者が明かすASICS引用?の真相と「ハイキュー!!」に込めたメッセージ

「ハイキュー!!」にはさまざまなスポーツ用品が描写されていますが、その中にASICS製品だと思われるウエアやシューズも盛り込まれています。特にこれまで名言されていないが、たとえば烏野高校のユニフォームには足のマークをプラスした「ics」というロゴが描かれています。果たして、このモチーフはASICSなのでしょうか。作品の生みの親である古舘春一先生が直々にその真相を明かしてくれました。

 

「はい、アシックスです(笑)。バレーボールに打ち込んでいた学生時代、お世話になっていたシューズがアシックスのものでした。なので、自分の体験から作中におけるメインのメーカーのモデルとして迷いなく選ばせていただきました。勝手にすみません、ありがとうございます」

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最後に、古舘先生は自身が夢中になってきたバレーボールについて、漫画を通じてどんなメッセージを伝えたいのか、その想いを聞いてみました。

「作中の台詞にもあるのですが、バレーボールはもっと面白いと証明できたらと思っています。バレーボール経験者にとっては当然のことが、知らない人には新鮮に見えるかもしれないし、テレビの試合を見ている時には気付かない、あるいは目立たないプレーや動きも、掘り下げたり、見方を変えたりすることで、より面白くカッコ良く見えるかもしれない。そういったディテールを探して見つけては、わかりやすく読者に伝えられたらうれしいですね」

 

「ハイキュー!!」1〜43巻発売中。

 

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TEXT : Shota Kato PHOTO : Hiroshi Ikeda