Vol.01ヘリテージと革新が導く
〈ASICS SportStyle〉


〈ASICS SportStyle〉というASICSブランドのカテゴリーをご存知でしょうか。
スニーカーやコラボレーションを通して耳にしたことがあるという方は多いかもしれませんが、
〈ASICS
SportStyle〉の根底にある想いや、成り立ち、これからのビジョンを知っていただき、
カテゴリーを深く知っていただけるコンテンツを提供します。
第1弾は、〈ASICS SportStyle〉の全体像、デザイン、マーチャンダイジングの3つの視点から、
カテゴリーの背景にあるストーリーをお届けします。
ブランドの強みを見つめ直す


〈ASICS SportStyle〉がASICSブランドのカテゴリーとして始動したのは2019年。以前はGEL-LYTE IIIやGEL-LYTE
Vに代表されるアーカイブシューズを復刻しローンチさせてきた「アシックスタイガー」ブランドが前身として存在していた。当時、ランニングシューズを扱う部門において、ランナーをサポートする機能性を高めたシューズを展開するパフォーマンスランニングと、ライトにランニングを楽しむためのシューズを展開するイージーランニングという部門に分かれていた。ファッションとスポーツを融合させていくという狙いの中で、「アシックスタイガー」ブランドと、イージーランニングの部門を組み合わせるようにして、スポーツに裏打ちされたスポーツライフスタイルとして、誰もがよりアクティブな日常を送れるようにというVISIONのもとに〈ASICS
SportStyle〉が誕生するのだが、当時を統括部長の鈴木豪はこう振り返る。
「ファッションとスポーツの融合を試みるという流れはブランドがスタートする以前からありましたが、当時ASICSではそのゾーンを攻めあぐねている印象がありました。だからこそ、市場のポテンシャルを見た上で、競技カテゴリーで培った先進的なテクノロジーという強みをもとに〈ASICS
SportStyle〉はどんな存在として、どんな価値を提供していくかを立ち上げのメンバーとともに考えながらこれまでやってきました。」
その名のとおり〈ASICS SportStyle〉に流れるASICSのDNAと向き合うことで、見えてきたものとは。
「先進的なテクノロジーを活用することと同時に、膨大なアーカイブ、積み上げてきた歴史があります。こういったものを活用して、時流を分析しながら適切なプロダクトを世の中に投下していく重要性を再認識しました。そして”健全な身体に健全な精神があれかし”というASICSの創業哲学を意識しながらカルチャーを通して人々の心を高揚させるような活動を促し、お客様とコミュニケーションをとる。その上で、〈ASICS
SportStyle〉を届けたい人の解像度を上げていくということが重要なポイントでした。まだまだ道半ばですが、少しずつマーケットを先読みして仕掛けられるようになってきています。」
先駆者となるために


スポーツブランドとして常に最前線を走るために、日々進化を続ける技術と、進化の歴史によって積み上げられてきたアーカイブの数々。ASICSブランドが生み出し続けてきたプロダクトは、今後の方向性を探るために多くのヒントを与えてくれるだけでなく、デザインにおいても歴史から新たな視点が生まれてくるのだと、スポーツスタイル統括部 デザイン部の上田隆之が語る。
「ASICSの資産や強みを用いて、周りを見ずに勝負するという気持ちでチャレンジしています。最初の1年は、目指すべきところが見えておらず、トレンドを追いかけてしまい、クリエイションにおいて先駆者となることができていませんでした。大きなマーケットを最初から狙うのではなく、向き合いたいお客様を明確にし、コミュニケーションを継続することで、トレンドをつくることができた部分もありました。具体的には、今でこそ“Y2K”というワードがありますが、2019年頃に北欧で高まりを感じさせるタイミングがあり、そのマーケットに積極的にアプローチした結果、グローバルで私たちのプレゼンスを高めるきっかけを掴むことができました。」
トレンドを後追いする後発的なポジションで拡大を狙うのではなく、あくまで先駆者となることを目指す。〈ASICS
SportStyle〉の持つ強みが積み重ねてきた過去と、常に時代を切り開こうとする精神にあるように、デザインにおいてもその姿勢は崩さない。こうした確固たる方向性を決めた要因のひとつに、2018年頃から現在まで密接なパートナーシップを築き上げている、Kiko Kostadinovとの出会いがある。
「すべてのパートナーに言えますが、お互いの価値を引き上げていくために、シナジーを作っていけるかどうかを重視しています。Kiko Kostadinovとの取り組みの中で“アーカイブという資産がこんなにある企業は他に無いのになぜもっと活用しないのか”という話や“アーカイブと先進的なテクノロジーを組み合わせたらもっと面白いものができるんじゃないか”という話がありました。彼との出会いを経て、マーケットが欲しているからではなく、強みを活かしたエッジの効いたプロダクトをお客様に届けることができるようになってきました。その一方で、コラボレーションのイメージが先行して、インラインのアイテムをお客様が認知していないという状況が生まれてしまった面もあるので、2021年頃からはインラインの展開も強化し、徐々に〈ASICS
SportStyle〉の本質的な部分を見てもらえるようになってきていると感じています。」
協業する人々との出会いによって、今までに無い視点が与えられていく。歴史に敬意を払いつつも、そこに固執するのではなく、あくまで進化を続けるための要素として捉え、ともにモノづくりを行う仲間の考え方を柔軟に受け入れて進んでいく。
「〈ASICS
SportStyle〉以前は世の中で売れているシューズを分析し、トレンドに対して自社の技術を組み込んでいくという手法がありましたが、今では流通状況を見て何かを決めるのではなく、今の時代にあったカルチャーや感情に訴える要素を組み込みながらデザインに反映しています。もともとはアートやファッションにおけるデザインとは異なり、機能をベースにしていますが、その上で感性に響くまだ見ぬかっこいいモノづくりを目指しています。デザインチームではありますが、協業するパートナー、お取り扱いいただいている店舗様など寄り添ってくれている人々と一緒につくり上げているという感覚です。」
最近ではアパレルラインの強化に取り組むなど、シューズに限らずトータルコーディネートでの提案も動き出しているように、〈ASICS
SportStyle〉は着実に進歩を続けている。無理な拡大を求めるのではなく、軸や根底にある想いに立ち返りながら、さらなる飛躍を目指して進んでいく。
手間を惜しまない姿勢


カテゴリーの戦略やデザインのバックストーリーをもとに日本市場でのマーチャンダイジングを担う、スポーツスタイル部プランニングカテゴリーマーケティングチームの設楽勇介は、〈ASICS
SportStyle〉の歩みをマーケットとの関わりの中で体感してきた。
「直営店やお取り扱いのある店舗様から情報収集をして、未来に向けて具現化していくような業務を行っています。お客様から求められるプロダクトを届けていくことが大切なので、実際にお店に足を運びながら、マーケットの状況を把握して社内に共有することを心掛けています。売上が伸びていたとしても、届けたい人々にしっかりと届いているかということも重要な要素のひとつです。」
単に売上を伸ばすという視点ではなく、〈ASICS
SportStyle〉のマーケットでの立ち位置や目指す方向に進んでいるかを店舗や消費者と近い目線で体感している。カテゴリーの認知や売上はもちろん大切ではあるが、手放しに喜んでいるばかりではいられない。
「右肩上がりな部分だけに偏って、現在のGEL-KAYANO
14のような人気モデルだけが独り歩きする状況は本意ではありません。一時的なトレンドになってしまわぬように、供給をコントロールする施策も行っています。その上で新しい提案をすることが重要なので、伸ばすべき部分を伸ばし時には制限をして、土壌を乾かすという部分も必要なのです。」
同時に、グローバルで展開するASICSブランドだからこそ、日本におけるオリジナルのアイテムを打ち出すことも日本マーケットでのイメージを作っていく上で欠かせない。
「グローバルのトレンドを参考にしながらも、やはり日本の独自性をもったアイテムを提供して差別化を図ることも重要と考えています。例えば、1983年の競技用バスケットボールシューズをベースとしたGEL-PTGシリーズなど、全体のプロダクトの中ではごく一部ですが、大事に育てていきたいアイテムです。」
売れる、売れないというポイントではなく、背景にあるストーリーやビジョンを伝えながらマーケットとのコミュニケーションを重ねていく。
「ブランディングを強化していく一方でハードルとなるのは効率化だと思っています。時代の流れと共に、業務を効率よく進めるためのツールが進化し、普段よりも考える時間を増やせることは良いことだと思いますが、一方で何もかも効率化優先としてしまうと、お客様も時代と共に進化していますので立ち行かなくなるなと思います。手間を惜しむ事にどれだけ向き合えるかが、ブランドの厚みになっていくと考えます。コストや手間の問題もありますが効率ばかりを求めると価値が希薄になってしまうかなと。同時にブランディングとは続けていくことでもあると思うので、常に情報や体験をお客様に提供していくことに意味があると思っています。」
短期的な売上を求めるのではなく、ストーリーやカルチャーを内包した価値を届けていく。〈ASICS
SportStyle〉は、積み上げてきた歴史を活用し、消費していくのではなく、振り返った時に足がかりとなるような今を重ねて、これからのファッションとスポーツの在り方を模索していく。

2000年代に登場したASICSのアーカイブシューズに見られる象徴的なディテールを落とし込んだGEL-KAYANO 14とGEL-NIMBUS 10.1。機能に紐づくデザインのアップデートを重ね、ファッションシーンへの提案を続けていく。